KHJ高知県やいろ鳥の会

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私たちの声


ひきこもり支援の難しさ
――当時者理解と支援のゴールとは――

2020.12 長谷川俊雄氏(白梅学園大学子ども学部教授)
NPO法人 なでしこの会会報223号から抜粋

コロナ禍とひきこもり
コロナ禍の中で、世界・社会が自粛生活の中でひきこもりと類似の共通体験をした。
その影響が家族には二通りに現れた。ひきこもりと類似した体験を通じて、ひきこもりへの共感的理解が深まる家族と、一方でそれがストレスとなり、なぜ子どもはひきこもるのかまったく理解できないと、緊張や葛藤が強くなる家族がある。この違いはどこから生まれるのだろうか。
コロナ禍には積極面もある。世界・社会がひきこもる人と類似の体験をした。そのことを活かして、ひきこもる人への理解を深めていくことが課題である。

8050問題 生きること 緩やかにつながること を大切にした支援
現状では、客観的な調査で全体がつかめてはいないが、複雑で深刻な問題である。8050問題は、ひきこもりとの関係でクローズアップされているが、ひきこもりだけの問題ではない。ひきこもりだけの問題としてとらえると本体を見誤る。本体は家族の社会的孤立である。

本人の問題
ひきこもる期間が長くなると、意欲が減退し、何かを変えることへの抵抗感が強くなる。また、社会経験が絶対的に少ないために社会参加が難しい。支援がひきこもる人の人生の希望や目標の収奪にならない配慮が大切。

親の問題
いろいろ取り組んできていて万策尽きているので、意欲がなくなるのが当然の状態。そこを精神主義的に「がんばれ」と励ます支援はより孤立を強めていくだけ。圧倒的な孤立無援感がある。だから容易には心を開いてくれない。また、変化することを諦めている。
深刻な問題だが、だからといって侵襲的な支援はしない方がよい。緩やかで柔らかい支援が必要です。

予防的支援
本人は孤立していても、家族全体が孤立しないように、50歳になる前から、地域や支援機関とつながっていくことが重要になる。そのためには20代、30代からの長期の継続支援が必要。

現状支援
地域や支援機関を拒絶していることが多い。まずは安否確認、情報と生活物資支援を通じてゆるやかな関係性を作る事。本人の同意のない乱暴なアウトリーチは止めた方がよい。積極的な支援が本人の尊厳と人格を傷つけることもある。

ひきこもりを生きることを支援する
親子は対立緊張関係にあることが多い。ひきこもりのゴールはまず①本音と本心を語れる事。そのためには、居間・リビングルームをゆったりできる場所にすること。「これからどうするの」「このままでいいの」と一方的な質問で本人を責めると、ますます部屋の中にひきこもってしまいます。本人は多くの場合、どうしてひきこもったのか自分でもわからず、漠然とした不安、不安定な状態にあります。まず、ゴールは②快適にひきこもるです。快適にひきこもらなければゆとりや余裕がありません。ゆとりや余裕なしに、ひきこもりをなんとかすることはできません。働いている、学校に行っているなどの「準ひきこもり」の人のゴールは③過剰に適応しない事です。彼らは外出できるようになるかもしれない、働けるようになるかもしれない。でも、彼らは「ひきこもりを生きている」のです。ですから、一気にひきこもりを解決するのではなく、「ひきこもりを生きる」ことを支援することが大切です。

親の良かれは子どもの迷惑
ひきこもりそれ自体よりも、そこから出られなくなることが問題。そうすると家族が心配する。しかし、親の提案が子どもにとっては迷惑になることが多い。そこから親子の緊張と対立が生まれる。そこに、更に社会的支援の不十分さが加わります。ひきこもりは全国に100万人いると言われています。統合失調症の方は全国に90万人いるが、さまざまな社会的支援がある。それに比べると、ひきこもりの社会的支援はほとんどないに等しい。そのために親の負担が肩に重くのしかかっているのが現状である。
適切な社会的支援がないままに、親が本人に不適切な関りを続けることで、ひきこもり問題が長期化していく。家族間の対立と緊張を緩めるためには、具体的には、本人の安全・安心をつくる、家族間親子間の信頼を取り戻す(新たにつくる)ことを目指すことです。

本人を変えようとしてはいけない
多くの場合、本人の変わりたい方向と親や支援者の考える方向が一致しないことが多い。本人が望まない方向に変えようとすることは暴力となり、ひきこもりを深め、他者や社会に対する恐怖感や拒否感を強めることもある。本人を変えるのではなく、本人との関係や環境を変えることが大切である。

生きることへの支援
ひきこもりの支援では、まず生きる事( being )を保障する。快適にひきこもりながら安心して生きる事を目標にする。その中で初めて何をしたいか考えられる条件が整うのではないか。本人が望んでいないにも関わらず doing  (外出・働く・他者と繋がる)を目標にすることは生きる力を弱めます。ひきこもる人の中には、生きる事そのものがつらくなり、自殺される方もあります。生きる事を保障することが彼らの命を守る事である。ひきこもる人に憲法25条の生存権を保障することです。

多様なゴール
ゴールは多様であり、それぞれの人にとっての最適なゴールがある。それぞれの人の自己決定権が徹底して尊重されることが重要である。

 

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